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京都地方裁判所 平成4年(ワ)1122号 判決

京都市北区西賀茂南川上町五四

本訴原告(反訴被告)

山田眞治

右訴訟代理人弁護士

釜田佳孝

右輔佐人弁理士

玉田修三

京都市上京区新町通上立売上る安楽小路四一八番地の一

本訴被告(反訴原告)

株式会社ひなや

右代表者代表取締役

伊豆蔵明彦

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對崎俊一

増岡研介

主文

一  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、登録第一八八二五一七号実用新案権に基づいて、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の帯の製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。

二  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)が製造、販売する前項の帯が被告の前項の実用新案権を侵害するものであるとの虚偽の事実を、文書または口頭で第三者に対して陳述流布してはならない。

三  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金一五三二万七六七〇円及びこれに対する平成四年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

五  本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを五分し、その四を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。

七  この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  本訴被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、登録第一八八二五一七号実用新案権に基づいて、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の帯の製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。

2  被告は、原告が製造、販売する前項の帯が被告の前項の実用新案権を侵害するものであるとの虚偽の事実を、文書または口頭で第三者に対して陳述流布してはならない。

3  被告は、原告に対し、四三八三万一六〇九円及びこれに対する平成四年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第3項について仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の帯の製造、販売または販売のため展示してはならない。

2  原告は、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の帯に組物または組帯との表示を付して販売または販売のため展示してはならない。

3  原告は、被告に対し、七五〇万円及びこれに対する平成五年一二月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、原告の負担とする。

5  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴請求原因

1  原告は、帯等の製造販売を業とする者であり、被告は、帯その他の各種織物、編物、組物及び加工製品の製造販売等を業とする会社で、両者は競争関係にある。

2  被告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有している。

(一) 出願日 昭和六〇年一二月二七日

(二) 出願番号 昭和六〇-二〇三一七一

(三) 公開日 昭和六二年七月一四日

(四) 公開番号 昭和六二-一一〇二二三

(五) 公告日 平成三年一月三〇日

(六) 公告番号 平三-三五四四号

(七) 登録日 平成四年一月一四日

(八) 登録番号 第一八八二五一七号

(九) 考案の名称 帯

3  本件実用新案権の願書に添付した明細書に実用新案登録特許請求の範囲として記載されたところは次の通りである。

「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行にする経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯」

4  本件考案の構成要件及び効果は次のとおりである。

(一) 構成要件

A 表地は長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造であること

B 裏地は長手方向に平行にする経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造であること

C 右表地と右裏地のそれぞれ長手方向に沿う両側縁を縫着させて重合状としたこと

D 帯であること

(二) 効果

前記明細書の詳細は説明によると次のとおりである。

「裏地が長手方向の伸びゆるみを規制すると共に帯幅を一定に保ち、表地が帯全体の柔軟性を高めて、結び易く且つほどけ難くし、皺になり難くする。」

5  ところで、原告は、以前より別紙イ号、ロ号物件説明書記載の袋帯を製造販売しているが、被告は、平成三年一二月頃より原告の取引先である訴外木村卯兵衛株式会社(以下「木村卯兵衛」という)等に対し、原告納品にかかるイ号物件及びロ号物件は本件実用新案の仮保護の権利、あるいは本件実用新案権を侵害するものであること、このため即時にイ号物件及びロ号物件の販売を中止すること、応じない場合は法的手段に及ぶ旨の警告を文書あるいは口頭でなした。

6  しかし、原告の製造販売するイ号物件及びロ号物件は、後記反訴請求原因(その1)に対する認否4に記載したとおり、本件考案の技術的範囲に属さず、これを属するとした被告の右警告は虚偽の事実を陳述、流布する不正競争行為である。

7(一)  営業上の損害

原告は、被告の右不正競争行為により、得意先との取引を失い、一〇三二万七六七〇円の販売利益を喪失し、かつ、二八五〇万三九三九円の得べかりし利益を喪失した。右の営業上の損害の合計は三八八三万一六〇九円である。

(二)  信用棄損による慰謝料

原告は、被告の度重なる得意先やその他の者に対する虚偽の風説の流布行為により、得意先を奪われたばかりか、関係業者からは原告商品が違法な模倣品であるかのように白い目で見られ、原告自身も違法な商品を販売している者と評価されるなどいわれなき汚名を着せられて、甚だしく社会的信用を失墜した。

原告が右により被った精神的・経済的な損害の慰謝料は三〇〇万円を下らない。

(三)  弁護士費用・弁理士費用拠出による損害

(1) 原告は、被告の度重なる虚偽の風説の流布による不法行為を阻止し、原告の信用を回復し、自己の営業の維持・発展を図るためやむなく原告訴訟代理人らを依頼し、本訴提起に踏み切った。

(2) そして、弁護士費用・輔佐人費用として原告が約束した報酬金の合計八二〇万円のうち少なくとも二〇〇万円は相当因果関係に立つ損害として認められるべきである。

(四)  右営業上の損害と慰謝料、弁護士費用等の拠出による損害の合計は四三八三万一六〇九円である。

8  よって、原告は、被告に対し、原告がイ号物件、ロ号物件を製造販売することにつき被告が本件実用新案権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに、不正競争防止法二条一項一一号に基づき、被告による前記5記載のような虚偽の事実の陳述・流布の差止並びに前記損害四三八三万一六〇九円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成四年五月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  本訴請求原因1ないし3は認める。

2  同4(一)は認め、同(二)は、これが作用効果の一つであることは認める。

3  同5のうち、被告がロ号物件を対象として警告を行ったことを認め、その余は否認する。

4  同6は否認する。詳細については反訴請求原因(その1)6のとおりである。

5  同7は否認する。原告が主張する木村卯兵衛との取引は、原告と木村卯兵衛との取引ではなく、訴外東和企業組合と木村卯兵衛との取引であるから、原告に損害は生じていない。

三  反訴請求原因(その1)

1  被告は、本件実用新案権を有し、本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、本訴請求原因3に記載されたとおりである。

2  本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである。

A 長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体における

B その表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、

C 裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る

D 帯

3  右のような構成要件によって構成される本件考案によれば次のような作用効果が奏される。

(一) 和服に直かに触れる裏地が長手方向の伸びゆるみを阻止して、和服を当初の引締め具合に継続して引締め、身幅のゆるみは生じない。しかも帯幅方向の伸び縮みも阻止していて、所定の帯幅に保ち形崩れがない。そして表地の長手方向及び帯幅方向の伸縮性により帯全体の柔軟性が優れて、結び易く且つほどけ難くて、皺になり難いものである。特に、帯が斜め状に交叉する結び部分では表地の組糸方向と裏地の経糸及び緯糸方向とが互いに平行して面着状となるため、相互にその動きを規制してほどけ難く、結び形が崩れ難い効果がある。

(二) 伸縮性を有する表地により、その長手方向及び帯幅方向に伸び或いは縮む各組糸によるところのやわらかな地合いの帯表となり、従来にない独特の意匠的美観効果を有し、商品価値大である。

4  原告は、遅くとも昭和六三年ころからイ号物件、ロ号物件を業として製造販売している。

5  イ号物件、ロ号物件の構成は、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書に記載されたとおりである。

6  本件考案の構成要件とイ号、ロ号各物件を対比すると次のとおりイ号、ロ号各物件とも本件考案の構成要件を充足する。

(一) イ号物件の構成と本件考案の構成要件

(1) 原告イ号物件説明書二aによれば、イ号物件には表地1が備わり、また、同説明書cによれば、裏地9と表地1のそれぞれ帯丈方向に沿う両側縁を縫着させて重合状にしたとされている。本件考案の構成要件Aは、前記のように「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体における」というものであるから、イ号物件説明書と相違するのは、「帯丈方向」と「長手方向」との表現部分である。しかし、両者が同一内容を意味していることは、イ号物件説明書第1図及び第3図から直ちに明らかである。従って、イ号物件は、構成要件Aを充足している。

(2) 次に、イ号物件説明書二aによれば、イ号物件の表地1は、細幅の布5をかがり糸6によって縫着させて帯幅とし、その細幅の布5は、小片布4をやはり帯幅方向に複数枚連成させて構成するとされている。しかし、この小片布4が、「その帯丈方向に対して左右斜めに交叉して組織する糸2」によって布状となっているものであることは、系3が単に糸2を反転して掛止させるための存在であって、布の構造部を構成していないことからも明らかである。そうすると、原告がいう「帯丈方向」が「長手方向」と同義であること前述のとおりであるから、本件考案の構成要件B、すなわち「その表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし」との対応関係も、イ号物件は構成要件Bを充足していることは明らかである。

(3) さらにイ号物件説明書二bによれば、イ号物件の裏地9は、「帯丈方向に配設する経糸とこれに直角状の緯糸による織物」であるとのことであるから、これが本件考案の構成要件Cを充足している。

(4) また、イ号物件は本件考案の構成要件Dも充足している。

(二) ロ号物件の構成と本件考案の構成要件

(1) 原告ロ号物件説明書二a及びcによれば、原告がいう「帯丈方向」とは、本件考案における「長手方向」と同義であるから、結局、ロ号物件が構成要件Aを充足していることは明らかである。

(2) 次に、ロ号物件説明書二a-1からa-3によれば、ロ号物件の表地1は、小片布4を連成した細幅の布5と、太幅の布16とから構成するとされている。しかし、この小片布4も太幅の布16も、その布の構造部は、前者にあってはイ号物件同様に「その帯丈方向に対して左右斜めに交叉して構成する糸2」により、後者にあっては「糸13を帯丈方向に対して左右斜めに交叉させて構成する」ことから成り立っていて、いずれの表地も結局のところ「長手方向に対し斜め対称状」の織り構造となっているのである。したがって、ロ号物件が構成要件Bを充足することも明らかである。

(3) さらに原告ロ号物件説明書のbが構成要件Cに該当充足していること、構成要件Dの充足も何ら問題なく認められる。

(三) イ号及びロ号物件の作用効果

イ号及びロ号物件は、前記した本件考案の作用効果をそっくり奏する。

7  以上のとおりイ号、ロ号各物件の構成は、本件考案の構成要件を充足し、かつ、イ号、ロ号各物件の作用効果も本件考案の作用効果と同様であるから、イ号、ロ号各物件が本件考案の技術的範囲に属することは明らかである。

また、本件考案の本質が、先ずは表地が組物であり、裏地が織物である袋帯であることからすれば、原告が相違点と主張する部分が仮にあったとしても、少なくとも利用関係にあるものとして、いずれにせよ、本件考案の技術的範囲に含まれることを免れない。

したがって、被告は、原告に対し、本件実用新案権に基づきイ号、ロ号各物件の製造販売差止請求権を有する。

8  前述のように原告は遅くとも昭和六三年ころから現在に至るまでイ号、ロ号各物件を業として製造販売しているが、本件考案につき実用新案登録出願公告がなされた平成三年一月三〇日以降、原告は、被告の実用新案権を侵害することを知りながら、又は少なくとも過失により知らないで、右行為を継続し、同日以降少なくともイ号物件、ロ号物件合計一億五〇〇〇万円を売り上げた。本件実用新案権の実施料率は少なくとも販売価格の五パーセントを下らないから、右原告の侵害行為によって被った被告の損害を仮に実施料相当額としても、その損害額は七五〇万円を下らない。

9  よって、反訴請求の趣旨のとおりの裁判を求める。

四  反訴請求原因(その1)に対する認否

1  反訴請求原因(その1)1は認める。

2  同2は争う。構成要件及び作用効果は本訴請求原因4に記載したとおり、

A 表地は長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造であること

B 裏地は長手方向に平行にする経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造であること

C 右表地と右裏地のそれぞれ長手方向に沿う両側縁を縫着させて重合状としたこと

D 帯であること

と分説されるべきである。

3  同3については、右に記載されたような作用効果が本件実用新案の明細書に記載されていることは認める。

4  同4は否認する。

5  同5は認め、同6は否認する。イ号物件、ロ号物件はいずれも本件考案の構成要件を充足するものではない。

(一) イ号物件について

(1) イ号物件の構成要件aの本件考案の構成要件Aの充足性について

〈1〉 本件考案の構成要件Aにいう表地とは、いわゆる「組物」による表地を指すと解すべきである。

〈2〉 ところで、「組物」とは、正確に言うと、数本から数十本の練り糸をまとめて一単位の糸とし、これらの単位化された糸を三単位以上用いて、一定の組み方に従い、各単位の糸を交互に斜め対称状に交差させて組み上げたものを指し、その大きな特徴は各単位の糸が常に斜め対称状に交差する点にあり、この点が各単位の糸が直角に交差する織物とは決定的に異なる。

しかるに、まず、イ号物件においては、その表地において、各小片布間における糸3や細幅の布間の糸6のように、帯丈方向に垂直な経糸が複数本走糸されて構成されているから、そもそも「組物」とは言えない。

また、イ号の表地の裏部には、接着剤7を溶融させて表地に貼着された中間裏地(接着芯)8が存するところ、かかる中間裏地は帯丈方向に対し垂直に走糸する緯糸から組織される織物であるため、それと一体となった表地は、表地自体の経糸と相まって、帯丈方向や帯幅方向に対する伸縮性を有しないものとなっている。従って、イ号物件の構成要件aは、本件考案の構成要件Aを充足しない。

(2) イ号物件の構成要件bの本件考案の構成要件Bの充足性について

イ号物件の裏地は織物であり、本件考案の裏地も織物であるので、イ号物件の構成要件bが本件考案の構成要件Bを充足することは認める。

(3) イ号物件の構成要件cの本件考案の構成要件Cの充足性について

本件考案において重合状に縫着されるのは組物たる表地と織物たる裏地の二枚の布のみであるが、イ号物件において重合状に縫着されるのは前記した構成からなる表地と、それと溶融一体化された中間裏地と、裏地の三枚の布であるから、イ号物件の構成要件cは本件考案の構成要件Cを充足しない。

(4) イ号物件の構成要件dの本件考案の構成要件Dの充足性について

本件考案にかかる帯は、その明細書における作用効果からうかがう限り、〈1〉裏地が和服に直に触れ、〈2〉結び部分では表地と裏地の糸が平行に面着(接着の意味)するものを指すものである。

しかしながら、イ号物件たる帯は、締めるに際し、裏地を内側にして帯丈方向に平行に二つ折りしたる後に体に締めてゆくものであるところ、二つ折りした時点において裏地は折り込まれた内側に隠され、表地のみが外部に露出する状態になるので、締める際には裏地が和服に直に触れるということはないし、結び部分でも表地と表地が接着するものの、表地と裏地が接着することはない。

つまり、本件帯の作用効果の記載からすれば、本件考案にかかる帯とは、締めるに際して二つ折りしない帯、つまり極めて細幅の帯を指すものと考えるしかないが、イ号物件たる帯はいずれも二つ折りして使用する広幅の帯であるので、帯そのものも本件考案たるものと異なるということになる。

したがって、イ号物件の構成要件dは、本件考案の構成要件Dを充足しないことになる。

(5) 作用効果について

イ号物件の表地は、前記したとおり、表地自体に組織される糸3や糸6といった経糸が組織されているため表地だけをとっても帯丈方向に対する伸縮性が減殺されているうえ、表地の裏部には、接着剤7を溶融させて表地と一体的に貼着された、帯丈方向に対し、垂直に走糸する緯糸から組織される織物である中間裏地(接着芯)8が存するため、本件考案が意図しているような帯丈方向や帯幅方向に対する伸縮性を有しない。

また、(4)に記載したように作用効果の記載からうかがえる本件考案にかかる帯とは二つ折りしない細幅の帯と考えるしかないが、イ号物件は、二つ折りにして締める広幅の帯であるため、織物たる裏地は和服に直に触れないし、結び部分においても表地の糸と裏地の糸が互いに平行に面着することがない。

したがって、イ号物件は本件考案の作用効果を奏しない。

(二) ロ号物件について

(1) ロ号物件の構成要件aの本件考案の構成要件Aの充足性について

ロ号物件においても、各小片布4の間の糸3や、細幅の布5と太幅の布16の間のかがり糸6といった帯丈方向に垂直な糸が複数本走糸して構成されていることや、太幅の布16には、糸13を左右斜めに交叉させて構成する部分だけではなく、糸13を反転掛止させて構成する部分も存する(ロ号物件の構成要件a-2の部分)ことから「組物」に該当しない。

また、右垂直な糸に加え、小片布4の外側側端部には五本の糸11から構成される補強部12が設けられていることや、さらにイ号物件と同様に表地の裏部中間裏地(接着芯)8が溶融一体化して設けられていることからも、組物におけるような伸縮性を有しない。

したがって、ロ号物件の構成要件aは、本件考案の構成要件Aを充足しない。

(2) ロ号物件の構成要件bの本件考案の構成要件Bの充足性について

この構成要件については、イ号物件におけると同様に充足することは認める。

(3) ロ号物件の構成要件cの本件考案の構成要件Cの充足性について

ロ号物件においても重合状に縫着されるのは前記した構成からなる表地と、それと溶融一体化された中間裏地と、裏地の三枚の布であるから、ロ号物件の構成要件cは本件考案の構成要件Cを充足しない。

(4) ロ号物件の構成要件dの本件考案の構成要件Dの充足性について

ロ号物件たる帯もイ号物件たる帯と同様に、締めるに際し、裏地を内側にして帯丈方向に平行に二つ折りしたる後に締めてゆく広幅の帯である。

したがって、ロ号物件の構成要件dは本件考案の構成要件Dを充足しない。

(5) 作用効果について

ロ号物件の表地も、表地自体に糸3や糸6といった経糸が組織され、糸13に反転掛止された部分が存し、外側側端部には補強部12が設けられているため表地だけをとっても帯丈方向に対する伸縮性が減殺されているうえ、表地の裏部には、イ号物件と同様に溶融一体化された中間裏地(接着芯)8が存するため、やはり本件考案が意図しているような帯丈方向や帯幅方向に対する伸縮性を有しない。

(三) 利用関係について

イ号物件やロ号物件の構成は、表地自体において経糸、補強部等の存在している点、中間裏地が表地自体と溶融一体化している点、三枚の布地が縫着されている点、太幅の帯である点において構造上相違があるから、本件考案の構成要件を充足しないものであるし、また、表地自体と中間裏地の一体化による非伸縮性や広幅の帯であることにより、本件考案の意図する作用効果を奏しないから、利用関係に当たらない。

(四) 公知技術について

本件考案は、出願のかなり以前より公知であった。一般に侵害訴訟において本来全部公知により登録を受けることができないにもかかわらず誤って登録がなされた特許権や実用新案権の権利範囲を定めるにあたっては、クレームに記載されている字義どおりのものとして最も狭く解するか、明細書の実施例に限定されたものと解して侵害を否定するのがほぼ確定した判例である。

そうであれば、右の観点からも本件登録実用新案権のクレームや実施例には、イ号・ロ号物件におけるような多数枚の布地からなる構成や経糸・補強部等の走糸状態や、中間裏地の存在といったものが記載されていないから、やはり、イ号・ロ号物件はその権利範囲に属しないものとして侵害を否定すべきである。

五  反訴請求原因(その2)

1  被告は、帯その他の各種織物、編物、組物及び加工製品の製造販売等を業とする会社である。

2  原告は、昭和四二、三年頃から被告の従業員であったが、同六三年に退職した。そして、その直後である平成元年より、イ号物件、ロ号物件及びこれに類する帯を組帯と称し、あるいは組物製作のために使用する高台とともに展示するなどして販売し、現在もこれを継続中である。

3  原告主張を前提とする限り、原告は、帯等の製造販売を業とする者であり、被告と競争関係にある。

4  イ号・ロ号各物件は、表地が組物ではなく、単なるバイアスの布地であり、したがって真実は組帯ではない。

5  組物は、正倉院御物に存在するほど歴史と伝統のある工芸品であり、製造に手間がかかるため、これを用いた組帯は、当然のことながら、いわゆる安価品とは一線を画されて流通し、高級品として評価されている。

6  被告は、本件実用新案権等からも明らかなとおり、このような組帯の開発に努めてきたのであり、また、長年にわたり組帯の浸透に寄与してきたのであって、このことから、被告ブランドの組帯は、高品質の高級品として確固たる評価を得ている。

7  しかるに、前記のとおり、原告が、真実は組帯でないイ号・ロ号各物件等を組帯と称して安価で販売し続けたため、あたかも、真実の組帯が、いわゆる「バイアス」の布地でしかない、いわば、「まがいもの」であるかの如き誤解を消費者に与え、ひいては、被告の組帯があたかも高品質ではなく、したがって、不当に高価であるかの如き誤解を消費者に与えることとなった。

8  このことにより、平成元年より今日までの間に被った被告の損害は七五〇万円を下らない。

9  以上の次第であるから、被告は、原告に対し、不正競争防止法三条一項、同四条、同二条一項一〇号に基づき、イ号、ロ号各物件の販売・展示差止請求権及び損害賠償請求権を有する。

六  反訴請求原因(その2)に対する主張

1  民事訴訟法二三二条に基づく主張

被告の反訴請求原因(その2)は、不正競争防止法上の質量誤認惹起行為を訴訟物とするものであるが、これまで訴訟物で争点となっていた実用新案権侵害の有無、すなわち原告の帯が本件実用新案権たる帯と同じ目的、構成、作用効果を有するか否かといった物品の形状、構造又は組み合わせを問題とするものとは全く異なり、原告の帯の表示が品質、内容等の誤認を生じさせるものか否かといった観点から原告商品に付される名称等の表示を問題とするものであるから明らかに請求の基礎に同一性がない。

したがって、被告の右訴えの変更は、民事訴訟法二三二条に反し許されないから不適法却下されるべきである。

2  民事訴訟法一三九条に基づく主張

本訴・反訴は1に述べた訴訟物について、実用新案権侵害の有無、すなわち原告の帯が本件実用新案権たる帯と同じ目的、構成、作用効果を有するか否かといった事実関係を中心に、訴え提起がなされた平成四年五月一五日から約三年三ヶ月間において、計二三回の口頭弁論期日(あるいは和解期日)が開かれ、原告においては訴状と計一一通の準備書面を、被告においては答弁書、反訴状と計一〇通の準備書面を提出し、書証、検証物が提出され、原告本人尋問も実施され、申請された人証はすべて尋問が終了し、弁論終結前の和解も行われた。

しかるに、今般、被告は新たな訴えを追加してきた。右訴えは1で述べたように全く異なる観点からの事実関係が問題となり、法律的にも、原告商品たる帯の表示は何か、その表示は、品質、内容表示に当たるか、果して名称「組帯」とは何を意味するのかといった様々な点が問題となってくるため、さらに審理が一、二年は長期化することは必至である。

被告は遅くとも平成四年一一月二七日までには、被告の言う誤認惹起行為の事実を把握していたのであるから、右時点において十分今回の新たな訴えの変更が可能であるにもかかわらず、既に審理が終結しようとしている段階で右主張を追加したものである。

よって、民事訴訟法一三九条の時期に遅れた攻撃防御方法であるから却下を免れない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載されたところと同一であるから、これを引用する。

理由

第一  本件実用新案権侵害の有無

一  本件考案の構成要件

1  原告及び被告が競争関係にあること、被告が本件実用新案権を有していること、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲が本訴請求原因3に記載されたとおりであること、及びイ号物件及びロ号物件が別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  本件考案の構成要件について、原告は、本訴請求原因4記載のとおり分説すべきであると主張するのに対し、被告は、反訴請求原因(その1)2に記載のとおり分説するべきであるとするが、考案におけるクレームを構成要件化するにあたっては、権利内容を理解しやすい形に分説するのが適当であるから、以下、より権利内容を理解しやすい形で分説している原告主張の分説方法にしたがったうえ、イ号物件及びロ号物件との対比を行うこととする。

二  本件考案の構成要件とイ号物件との対比

1  本件考案の構成要件Aは、「表地は、長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造であること」というものである。そして、被告は、イ号物件の表地1を構成する小片布4が「その帯丈方向に対して左右斜めに交差して組織する糸」である点から、イ号物件は構成要件Aを充足している旨主張する。

しかしながら、以下の点で、イ号物件が構成要件Aを充足しているということはできない。

(一) イ号物件構成要件a-1には、左右斜めに交叉して組織する糸2のほかに、糸2相互間にその帯丈方向に配設され、糸2と組織させる糸3が存在しており、右糸3の存在は、表地を構成する小片布4が帯丈方向の伸びゆるみを防止しており、この点、裏地により表地の伸びゆるみを防止している本件考案と異なっていること

(二) イ号物件構成要件a-4には、接着剤7を溶融させて表地1と一体的に貼着される中間裏地(接着芯)8が設けられており、右の中間裏地によって、表地の伸縮性をおさえており、イ号物件の表地は、いわば中間裏地と一体となったものと認められ、単に「表地は、長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造であること」を要件とする本件考案の構成要件Aとは実質的に異なっていると認められること

2  イ号物件構成要件bが、本件考案の構成要件Bを充足していることは当事者間に争いがない。

3  本件考案の構成要件Cは、組物たる表地と織物たる裏地の二枚の布を重合状に縫着するというものであるが、イ号物件においては、表地と、これと溶融一体化された裏地中間裏地と、裏地の三枚の布であるから、イ号物件の構成要件cは本件考案の構成要件Cを充足しない。

4  本件考案は、その考案の効果として、「和服に直かに触れる裏地が長手方向の伸びゆるみを阻止して、和服を当初の引き締め具合に継続して引き締め、身幅のゆるみは生じない。」「特に、帯が斜め状に交叉する結び部分では表地の組糸方向と裏地の経糸及び緯糸方向とが互いに平行して面着状となるため、相互にその動きを規制してほどけ難く、結び形が崩れ難い」とされており、本件考案にかかる帯は、〈1〉裏地が和服に直に触れ、〈2〉結び部分では表地と裏地の糸が平行に面着するもの、すなわち、締めるに際して二つ折りしない帯を指していると解することができる。これに対し、イ号物件は、原告本人尋問の結果によると、締めるに際し、裏地を内側に当て帯丈方向に平行に二つ折りした後に体に締めて行くものであり、本件考案にかかる帯との間では、帯を締める場合の方法が基本的に異なっているというべきである。

5  したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件A、C、Dを充足しているものとは認めることができず、イ号物件が本件実用新案権を侵害していると認めることはできない。また、右に検討したとおり、イ号物件と本件考案とは本質的に異なる構造であることが認められるから、イ号物件と本件考案とが利用関係にあると認めることもできない。

三  本件考案とロ号物件との対比

1  ロ号物件についても、その構成要件a-1において、帯丈方向に配設される糸3が存在して表地を構成する小片布4の帯丈方向の伸びゆるみを防止していること、構成要件a-4において、中間裏地が用いられて表地の伸縮性をおさえていることは、イ号物件と同様であり、ロ号物件も本件考案の構成要件Aを充足しない。

2  また、構成要件C、Dについても、イ号物件と同様、いずれも本件考案の構成要件を充足しているとは認められない。

3  したがって、ロ号物件も、本件実用新案権を侵害していると認めることはできない。また、イ号物件と同様、本件考案と利用関係にあるものと認めることもできない。

四  以上、検討したところによれば、イ号物件、ロ号物件ともその構成が本件考案の技術的範囲に属すると認めることはできない。

第二  被告の不正競争行為について

一  不正競争行為の有無

1  甲35、原告本人尋問の結果及び後記認定事実中に掲記の各証拠によると、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、木村卯兵衛、株式会社錦に原告製品を御し、また木村卯兵衛は、塚本商事に原告製品を転売していた。

(二) 平成三年一二月一二日ころ、被告は木村卯兵衛に対し、以下の内容の催告書を内容証明郵便により送付した。

「弊社は昭和六十年十二月二七日付で考案「帯」に関し、実用新案登録出願をしていましたが、特許庁の審査を経て出願公告となり(実公平三-三五四四号公報参照)、その後登録査定を受けて現在のところ実用新案権の設定登録を待つばかりとなっています。

この考案「帯」は、「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯」をその技術的範囲とするものです。

ところで、貴社は商品「組帯」を仕入れ販売しておられますが、該商品を入手し調査したところでは、弊社が所有する前記実用新案の技術的範囲とする構成要素を全て具備しており、当該技術的範囲に属し該実用新案に抵触することが判明致しました。

・・・・・(略)・・・

而して、前掲実用新案の実施行為は何ら権原なき第三者には認められないところ、弊社は貴社の商品「組帯」を販売する行為を認めた事実はありませんので、貴社の当該行為を即刻中止するよう本書を以て催告するとともに、前記仮保護の権利が発生した平成三年一月三十日以降の貴社商品「組帯」の仕入れ先、販売量、販売先及び在庫量を、本書到達の日より2週間以内に弊社代理人宛てへご回答することを求めます。」(甲9)

(三) さらに同月一三日、被告ほか六社により構成する「西陣の染織の意匠ならびに著作に関する権利を守る会」名義により、木村卯兵衛に対し、前項と同様の内容証明郵便を送付した。(甲10)

(四) また、被告は、同月一二日、塚本商事株式会社に対し、さらに平成四年一月二九日、株式会社錦に対し、(二)と同様の内容の内容証明郵便を送付した。(甲11、13)

(五) 被告は、株式会社平文に対し、羅功粋山田の商品は今侵害品で訴えているから「株式会社ひなや」の商品を扱うのか羅功粋山田の商品を扱うのか、と問いただし、平文が「羅功粋山田の商品を扱う」旨回答したところ、被告は、平文にある被告の在庫の引き取りを拒否した。

2  右事実によれば、被告は、原告の販売する商品(イ号物件、ロ号物件を含む。)が、被告の有する実用新案権を侵害するものであるとの虚偽の事実を陳述、流布する不正競争行為を行ったものと認めることができる。

二  損害額

そこで、被告の不正競争行為により原告に生じた損害について検討する。

1  販売利益の喪失

(一) 後記認定事実中に掲記の証拠によると以下の事実を認めることができる。

(1) 前記1に認定した被告の不正競争行為の結果、イ号物件、ロ号物件を含む原告の製品一切が、塚本商事から木村卯兵衛に返品されることになり、木村卯兵衛も原告との取引を中止し、原告は木村卯兵衛に販売していた商品合計二七五四万〇四五五円分の返品を受けざるを得なくなった。(甲27ないし30、甲32)

(2) 原告の売上における原価率は、平成元年から同四年の平均で六二・五パーセントであり、利益率は三七・五パーセントである。(甲33)

(二) 右事実によれば、原告は、被告の不正競争行為により、一〇三二万七六七〇円の販売利益を喪失したことを認めることができる。

2  逸失利益

甲34によれば、原告の木村卯兵衛に対する平成元年度及び平成二年度の売上高の年平均は三八〇〇万五二五二円であることが認められる。原告は、右の売上高に基づき、木村卯兵衛に対する将来の逸失利益を損害として請求する。

しかしながら、商品取引高は、景気の動向、流行の変動等により年により変動するものであり、単純に過去の平均売上高をもって将来の逸失利益を具体的に認定することはできない。

3  信用棄損による損失

被告の不正競争行為により、原告が木村卯兵衛等の取引先を喪失し、社会的信用を失墜したことは前記(一)に認定したとおりであり、この損害を金銭で評価すると三〇〇万円は下らないものと認めることができる。

4  弁護士・弁理士費用

原告が、被告の不正競争行為による信用回復のため、弁護士及び弁理士を依頼し、本訴を提起したことは当裁判所に明らかであり、少なくとも二〇〇万円は、被告の不正競争行為と相当因果関係がある損害と認めることができる。

5  よって、被告の不正競争行為により、原告には、一五三二万七六七〇円の損害が発生したものと認めることができる。

三  損害の主体について

1  被告は、原告の主張する損害は、原告に生じたものではなく、原告の所属する企業組合である東和企業組合に生じたものである旨主張するので、この点について検討する。

2  後記認定事実中に掲記の各証拠によると、以下の事実を認めることができる。

(一) 東和企業組合は、個人事業主として商売をしながら記帳・申告・税金・金融・労働社会保険などの事務を協同化するために設立され、事業所数二三六軒を擁する企業組合である。(甲38、甲39)

(二) そして、同企業組合は、異業種の個人事業者が直接出資して加入し、従前の事業をそのまま組合の一事業所として継承する事業所分散型の総合企業組合であり、事業の主体はあくまで各事業所の責任(組合員個人)において行われ、売上及び経費等の収支計算も各事業所単位で集計し、また、その過程における現金等の授受はすべて組合内に開設されている各事業所の預金口座(組合員自身が自由に使え、脱退時には全額払い戻される)を通して行われるものである。そして、事業所は税制のうえでは法人の一事業部門になるが、実際の商取引は一般の個人事業者と同様に扱われる。(甲36)

(三) 原告と木村卯兵衛との取引における請求書、納入伝票、領収書、はいずれも原告本人を名義人又は宛て名として発行されている。(甲26の2、甲27の1ないし21、甲28ないし31)

(四) さらに税法上、原告に対する給与として支払われる額についても、原告において自由に決定できる仕組みとなっている。(原告本人尋問の結果)

3  右2において認定した事実によれば、前記二において生じたと認められる損害は、原告個人に対して生じたものと認めるべきであり、この点に関する被告の主張は採用できない。

第三  反訴請求原因(その2)について

反訴請求原因(その2)は、不正競争防止法上の品質等誤認行為に基づき、イ号物件及びロ号物件の「組帯」または「組物」との表示を付した販売の差止を主張するものである。

ところで、本訴は、前記第二に認定のとおり、原告が被告の実用新案権を侵害した商品を販売している旨の催告書を被告が原告及び原告の取引先に送付したことをきっかけとして平成四年五月一五日に提起されたものである。そして訴訟提起以来、反訴請求原因1と相まって、本件訴訟の審理の焦点は専らイ号物件及びロ号物件が、本件実用新案権を侵害するか否かについて行われ、平成四年六月二四日から平成六年一二月一四日までの二年半の間に一六回の弁論を重ね、その後平成七年一月二五日から同年七月一三日までの半年間、六回にわたり従前の審理を踏まえた上で和解手続が行われた。そして、最終的に和解が不調となることが明らかとなり、本件訴訟が終結段階を迎えた同年八月一〇日に至り反訴請求原因(その2)の主張が提出されたものである。

そして、反訴請求原因(その2)の主張は、従前の争点である原告が本件実用新案権を侵害するか否かという点ではなく、原告の販売するイ号物件及びロ号物件を「組帯」ないし「組物」と称して販売する行為が品質誤認行為に該当するか否かを争点とするものである。右の点を判断するためには、「組帯」ないし「組物」との名称が商品の品質を表現するものか、「組帯」と称する帯がいかなる形態の帯を指して販売されてきたか、「組物」とはいかなる形態を表示するものか、被告がいかなる形態の帯を販売してきたかといった点を、その織り方に至るまで深く分析したうえ詳細に証拠調べを行う必要があり、そのためにさらに一年ないし二年を要するであろうことが予想される。しかも、反訴請求原因(その2)の主張は従前の訴訟物と全く異なる訴訟物を主張するものであるから、別訴としても提起しうるものである。

被告は、平成四年一一月二七日付け準備書面において既に「組み帯」の形態について言及しつつ、「ここでは別問題であるのでこれ以上にはふれないこととする。」旨述べ、この点を争点にすることを敢えて避けており、遅くとも、同日までには、反訴請求原因(その2)の主張を追加することは十分可能であった。したがって、訴訟の最終段階に至るまで右主張を行わなかったのは、被告の故意又は重大な過失に基づくものと認められる。

そうすると、被告が訴訟の最終段階に至って提出した反訴請求原因2の主張は、訴訟を著しく遅延させるものであることは明らかであり、これが被告の故意又は重大な過失によるものと認められるから、時期に遅れた攻撃防御方法として、民事訴訟法一三九条に基づき、却下するのが相当である。

第四  結論

以上、検討してきたところによると、原告の本訴請求は、イ号物件及びロ号物件が本件実用新案権を侵害しないことの確認、イ号物件及びロ号物件が被告の実用新案権を侵害するものであるとの虚偽の事実を文書又は口頭で第三者に対して陳述・流布することの差止並びに損害賠償として一五三二万七六七〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鬼澤友直 裁判官 本田敦子 裁判長裁判官小田耕治は、転補につき署名捺印できない。 裁判官 鬼澤友直)

(別紙)

イ号物件説明書

一、名称 帯

二、技術的構成

a:表地1は、

a-1・その帯丈方向に対して左右斜めに交叉して組織する糸2と、この糸2相互間にその帯丈方向に配設され糸2と組織させる糸3とより小片布4を構成すると共に、この糸3において糸2を反転して掛止させることにより前記小片布4をその帯幅方向に複数枚連成させて細幅の布5を構成し、

a-2・この細幅の布5をその帯幅方向に複数枚配設し、その細幅の布5の相互間を細幅の布5の帯丈方向に沿う側端縁においてかがり糸6により縫合して構成するとともに、

a-3・帯幅方向両側に位置する前記小片布4の外側側端縁に、5本の糸11により構成した補強部12を設け、かつ、この糸11と糸2を掛止させ前記細幅の布5と補強部12とを連成し、

a-4・その裏部には、接着剤7を溶融させて前記表地1と一体的に貼着される中間裏地(接着芯)8が設けられるものであること、

b:裏地9は帯丈方向に配設する経糸とこれに直角状の緯糸による織物であること

c:右裏地9と前記表地1および中間裏地8とをそれぞれ帯丈方向に沿う両側縁で縫着10して重合状にしたこと

d:帯であること

図面の説明

第一図は、イ号製品の帯丈方向の一部を示す要領図

第二図は、第一図A部分の表地の拡大要領図

第三図は、第一図のB-B線断面要領図

第四図は、第一図C部分の表地の拡大要領図

1:表地

2:左右斜めに交叉して構成する糸

3:帯丈方向に配設される糸

4:小片布

5:細幅の布

6:かがり糸

7:接着剤

8:中間裏地(接着芯)

9:裏地

10:縫着

11:補強部の糸

12:補強部

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

(別紙)

ロ、号物件説明書

一、名称帯

二、技術的構成

a:表地1は、

a-1、帯幅方向両側部に、

その帯丈方向に対して左右斜めに交叉して構成する糸2と、この糸2相互間にその帯丈方向に配設される糸3とより小片布4を構成すると共に、この糸3において糸2を反転して掛止させることにより前記小片布4をその帯幅方向に二枚連成した細幅の布5を設け、

この二枚の小片布4中、外側に位置する小片布4の外方側端部に、五本の糸11により構成した補強部12を設け、かつ、この糸6と糸2を掛止させ前記細幅の布5と補強部12とを連成し、

a-2、帯中央部には、

糸13を帯丈方向に対して左右斜めに交叉させて構成する部分14と、糸13を相互に反転掛止させて構成している部分15とを帯丈方向に交互に設けた太幅の布16が形成され、

a-3、前記帯幅方向両側部の細幅の布5と帯中央部の太幅の布16とを帯丈方向に沿う側端縁においてかがり糸6により縫合して構成されている。

a-4、そして、その裏部には、接着剤7を溶融させて前記表地1と一体的に貼着される中間裏地(接着芯)8が設けられるものであること、

b:裏地9は帯丈方向に配設する経糸とこれに直角状の緯糸による織物であること

c:右裏地9と前記表地1および中間裏地8とをそれぞれ帯丈方向に沿う両側縁を縫着10させて重合状にしたこと

d:帯であること

図面の説明

第一図は、ロ号製品の帯丈方向の一部を示す要領図

第二図は、第一図A部分の表地の拡大要領図

第三図は、第二図のB部分拡大図

第四図は、第一図C-C線断面要領図

1:表地

2:左右斜めに交叉して構成する糸

3:帯丈方向に配設される糸

4:小片布

5:細幅の布

6:かがり糸

7:接着剤

8:中間裏地(接着芯)

9:裏地

10:縫着

11:補強部の糸

12:補強部

13:帯中央部の糸

14:糸を左右斜めに交叉させて構成する部分

15:糸を相互に反転掛止させて構成している部分

16:太幅の布

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

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